「後見制度支援信託」の信託契約を締結(ていけつ)することになった成年後見人にとって、日常の業務がどうかわるのか不安はありませんか?
こんにちは。
信託銀行へ記帳に行ったら、終点で折り返してきた往路と同じバスに乗ってしまった姉ポです。最重度知的障がいをもつ妹の成年後見人をしています。
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前回の記事『【検討編】家族後見人が感じた!「後見制度支援信託」は利用すべき?』では、信託契約のメリットとデメリットを比較し、「後見制度支援信託」利用を検討する材料にしていただきました。
今回は、実務編です!
「後見制度支援信託」信託契約の締結あとのはなし。
日常の業務がどうかわるのか。実際に信託口座を管理している姉ポが、日常の「口座管理」実務についてまとめました。
また、平成30年6月から(東京家裁本庁)取り扱いのある「後見制度支援預金」も同様の手続きになりますのでご参考ください。
もくじ
信託口座からの交付方法「定期交付」と「一時金交付」はどう違う?
「定期交付」とは
「定期交付」は、信託契約の締結のときに設定する交付方法です。
締結のときに定期的な支出を想定して決めた「交付日」と「金額」が、信託銀行から成年後見人が管理する預貯金口座へ自動で交付されます。
成年後見人は交付されたお金を生活費として管理し、各所に必要な支払いを済ませましょう。
「成年後見支援預金」の場合は、「定期交付」と類似したサービスを「定額自動送金サービス」「スイングサービス」など、各行ごとに異なる呼び名になっています。
「交付」とは。言葉の意味
信託銀行が預かったお金を、持ち主に引き渡すことを意味しています。
「定期交付」が必要なのは、収入よりも支出が多い人
知的障がい者の収入は、主に障害年金・給付金や本人が稼いだ賃金かと思われます。
それら収入の合計額よりも支出が多い人に、定期交付が必要となります。
「定期交付」が必要な人の収支
【支出】生活費の支払い > 【収入】障害年金・給付金・賃金など
定期交付をすることで、毎月決まった額が「収入」に加わります。
【支出】生活費の支払い ≒ 【収入】定期交付額 + 障害年金・給付金・賃金など
収支のバランスが安定しました!
「定期交付」されたお金は、日常的な支出に充当できる
信託財産の定期交付は、日常の定期的な支出を考慮して契約しています。
契約締結ののち、あとは契約で定めた日・定めた金額が、預貯金口座へと自動で入ります。
日常的な支出とは以下のようなものが想定されているようです。
施設利用料 通院代 食費 保険料 おこづかい など
もともと自分のお金ではありますが、給料日やおこづかい日みたいな感覚ですね。
定期交付されたら、後見人は各所への支払いを済ませてください 😉
「一時金交付」とは
生活費以外のお金が、突発的に必要となったときに、必要な額だけ交付すること。信託銀行から成年後見人が管理する預貯金口座へ交付されます。
一時金交付では、家庭裁判所と信託銀行への手続きが必要となります。
「一時交付」のみで対応できるのはこんな人
知的障がい者の生活スタイルは、施設入所、生活介護サービスのみ利用、ずっと家にいるなどさまざま。よって生活費も人それぞれかと思います。
障害年金・給付金や本人の賃金などの収入で、生活費がほぼ足りている人なら、定期交付は特に必要ありません。
定期交付を受けてる方も、受けてない方も、突発的な支出には「一時交付」によって対応できます。
突発的な支出とは、例えば以下のようなシーンが当てはまります。
引っ越すことになった 長期入院することになった 住居の改装が必要になった など
いづれも大きなお金が動くときですね。
一時金交付されたら、予定を進行してください 🙂
定期交付 | 一時金交付 | |
お金の使用用途 |
|
|
手続きの必要性 | 主に口座開設のとき契約をする | お金が必要になったときに行う |
交付のされ方 | 自動的に交付される | 都度交付される |
預金を引き出したい!「一時金交付」の手続き
信託口座から「定期交付」を受けている方も、受けていない方も、予定外の出費が生じる可能性はあるかと思います。
または、じりじりと生活費が減少していて、預貯金口座にお金が必要になるかも。
そんなとき、信託口座からお金を出すことができるのが「一時金交付」となります。
では、具体的になにをすればいいでしょうか。
「後見制度支援信託」によって信託したお金を出すには、まずは家庭裁判所に理由を報告、許可が必要です。
ここでは「一時金交付」の手順と、必要書類について説明します。
信託財産の一時金交付の手順
- 添付資料とともに、家庭裁判所へ「報告書」を提出
- 報告書に追記される形で、家庭裁判所から「指示書」が発行される
- 家庭裁判所による指示の日から3週間以内に、信託銀行へ「指示書謄本」を提出し一時金交付の請求をする
「指示書謄本」とは。言葉の意味
写し(コピーなど)ではではなく、家庭裁判所から発行された指示書の原本のことです
家庭裁判所へ提出する書類
- 報告書
家庭裁判所が用意する定型書式の「報告書(一時交付金)」
参考
裁判所HP「後見制度支援信託で使う書式」
⑨-2 報告書・指示書(一時金交付)
https://www.courts.go.jp/shizuoka/saiban/koken/l4/Vcms4_00000191.html - 添付資料
○ 交付請求額と、交付の理由を裏付ける書類
ex. 自宅で介護するためのリフォームに関する見積書など
○ 信託銀行等から受領した直近の「信託財産状況報告書」
「信託財産状況報告書」は信託銀行によっては定期的に送付がある。定期的な送付がない信託銀行へは請求をする
○ 被成年後見人の預貯金通帳の写し
口座管理ですべきこと・気をつけること
日常の口座管理
日常の口座管理について整理します。
生活費は、銀行口座と現金で行います。
「後見制度支援信託」を利用すると、預貯金口座には、本人の生活費+アルファ程度の金額がある状態です。
そのほか、郵便代や手数料の支払いなどのために、手持ちの現金(小口現金)をすこし持っておくといいです。
公共交通機関で移動できる方は「Suica」などの交通系ICカードを利用されるかと思いますが、ICカードは現金の扱いに準じて考えてもらえれば大丈夫です。現金管理の「専用ポーチ」が、「ICカード」になったような要領です。
- 信託口座
基本は放置。通帳類の保管は慎重に。 - 銀行口座
定期収入(障害年金など)、定期支出(保険料など)は、限界まで自動振込にする
現金の出金は、手持ち預かり金の不足や、立替金の精算のみで
単発的に銀行口座から直接振り込みをした場合は、手数料を含め証明書(領収書)を必ず保管する - 現金
専用ポーチなどで保管
現金での買い物では、領収証を必ず保管する
出金時は、ひたすら出納帳をつける w - 立替金
成年後見人が被成年後見人のために立て替えたお金は、その領収書と引き換えに、預貯金口座または専用ポーチの現金から出金し、清算すをる
清算のときも、ひたすら出納帳をつける w

妹ちゃん(被成年後見人)のクレジットカードを作れないことには、本当に困ってます。
なぜ作れないのか。
法律や金融機関いわく「本人(被成年後見人)はクレジットカードを使用できない(使用する権利がない)から」だそうです。
とはいえ、本人は生活のために必要なものがあり、いまや通販での買い物は不可欠。振り込みだけで処理するには、手間がかかりすぎます。
仕方ないのでうちでは、クレジットカードが必要な場面は姉ポが「立替購入」し、領収書にて妹ちゃんに請求・精算をしています。会社の経費精算みたいに。
これについては、銀行関係者から解決策として、クレジットカードではなく「デヴィットカード」を利用してはどうかという提案を受けました。
姉ポはデヴィットカードを利用したことがないため、慎重に検討している最中です。
定期報告時の信託銀行の口座管理
さきほど「基本は放置」といった信託口座ですが、年1回、家庭裁判所への定期報告を行います。
通帳の写しが必要になりますので、定期報告の報告月になったら、信託銀行の通帳に記帳しましょう。預金を触ってもないのに記帳をする理由は、微々たる金額ですが「収益」があるからです。
記帳をして通帳のコピーをとったら、他の口座と同様、報告書ヘ残高を記入するだけです。
手順
- 通帳に記帳する
- 写しをとる(コピーする)
- 残高金額を「財産目録 A」に転記する
記帳は報告月の前月末まででOK。報告月が4月なら、記帳が必要なのは前年4月から当年3月です。
店舗が近くにない場合など、郵送で記帳を受け付ける信託銀行もあります。
通帳に記帳される「収益」とは、ファンド運用収益等の分配金のことです。
「収益」とは。言葉の意味
信託銀行に託したお金が運用され、その利益が分配されたもの。
被成年後見人の支出を、後見人が立て替えるときに気をつけること
なにはともかく→「領収証」を保管してください。
成年後見人に限らず、他の家族などが立て替えるときも同様です。
本人(被成年後見人)のための支出であることがわかるように、メモをしているといいです。
ex.「妹ちゃん 長袖シャツ」「妹ちゃん 外出時飲食」など
自分のルールを決めて、ルーティンにしてしまえば楽になりますよ。
姉ポは次の通り。会社や事業主の経費清算とおなじつもりで管理してます。
姉ポ手順
- 【立替】1-2. 本人の代わりに立て替えて支払いをし、領収書をもらう
1-2. 即、領収書に名前などをメモする - 【保管】領収書は、未清算フォルダ(現金ポーチなど専用の袋でも)にぶちこんで保管する
- 【精算】3-1. そこそこの金額になったら(立替時の都度でも可)、立替合計額を本人の現金ポーチからもらう
3-2. 領収書を見ながら、現金出納帳にお金の移動を記帳する
3-3. 領収書に「OK」スタンプを押して、清算済みフォルダに移動する
まとめ
この記事では、「後見制度支援信託」の利用を開始したあとの口座管理について解説しました。
- 信託口座からの交付方法は、「定期交付」と「一時金交付」の2種類がある
- 突発的にお金が必要になったときは「一時金交付」を使う
- 「一時金交付」をするには、用途を家庭裁判所に報告し、指示書をもらう
- 預貯金口座、現金など各口座の管理方法
- 定期報告時には、信託口座の記帳をする
- お金を立て替えたときのルーティンを作る
生活でつかう預貯金口座の残高が足りなくなっても、「一時金交付」の手順がわかったことで、すこし安心してもらえましたでしょうか。
お金を立て替えたときの精算の流れなど、ぜひご自分の口座管理ルールとルーティンを作って、後見業務を楽にしてください! 姉ポ&妹ちゃん